JANAMEFメルマガ(No.13)

「研修医の指導について」

岩岡秀明
船橋市立医療センター代謝内科


みなさまこんにちは、船橋市立医療センター代謝内科の岩岡秀明と申します。
当院は千葉県船橋市にあり人口64万人の市立基幹病院として、救急、高度専門医療、地域連携を3本柱に診療を行っています。また、人口110万人の地域三次救命救急センターを併設しています。
当院は、基幹型臨床研修指定病院で毎年12名の初期研修医を受け入れております。

 

今回、自由なテーマでエッセイをご依頼いただきましたので、初期研修医の指導について考えてみます。

当院では、卒後3年目(専攻医)以上の医師は、当直明けは半日の勤務で帰宅して良いことになっています。実際には、当直明けでも夕方または夜まで仕事している医師もたくさんいますが・・・
ただし初期研修医は、当直時間帯に「必ず4時間の仮眠時間を確保」していますので、当直明けも17時までの通常勤務となります。

ある朝、当科で初期研修中のB君からこう言われました。

「おはようございます。今日は、当直明けですので、お昼までで帰っても良いですか?」

私は一瞬キョトンとしてしまいましたが、「ああ、それは卒後3年目以上の場合だよ。初期研修医は当直時に必ず4時間の仮眠時間帯を設けてあるから、当直明けも17時までの通常勤務なんだよ。」と説明しました。

この取り決めは、以前から決まっていたことでしたので、初期研修医からのこのような質問を受けたのは初めてでした、しかし、ここで呆れてしまい、B君の評価を落としてはいけません。

ここで大切なことは、以下をきちんと検証することです。
1)初期研修医は、実際にきちんと4時間の仮眠時間を確保できているか?研修管理委員会で、初期研修医たちに確認する。もし確保できていなければ、きちんと改善する。
2)3年目以上の医師は、当直明けは半日で帰れるように、タイム・マネジメントをきちんとしているか、帰宅後に引き継げる体制を構築しているか、そして上司が率先して帰宅するようしているか(上司が率先して帰らないと、とても部下は帰れません。)

 

このテーマにぴったり合致する岩田健太郎先生の「Dr.イワケンのねころんで読める研修医指導」1) という素晴らしい参考書をご紹介します。
指導者向けのポジティブな実践書で、私も本書を読んでとても感心し、勉強になりました。

岩田健太郎先生の本はみなそうですが「楽しく読めて、かつとても勉強になる」、これはとても重要な事ですが、実は難しい事です。
私も何冊かの著作がありますが、このような本を書くことは至難の技です。
多数の著作がある医師の中でも、特に岩田健太郎先生と國松淳和先生のお二人は、「楽しく読めて、かつとても勉強になる本」をたくさん書かれておられる素晴らしい才能をお持ちだといつも尊敬しております。
話はそれますが、「医師でミステリー作家」の中では、知念実希人さんと久坂部羊さんの作品が大好きです。特に、知念実希人さんの最新作「硝子の塔の殺人」は、本格ミステリー好きでも唸らされる大ドンデン返しのトリックが楽しめる作品ですので、ぜひお読みください。

さて、「Dr.イワケンのねころんで読める研修医指導」では、指導医になったばかりの若きオオベ先生という擬似キャラクターを相手に、「イワケン節」が全開です。
以下、本書で語られている「Dr .イワケンの指導の格言!」から、一部をご紹介します。
通常の教育に関するテキストにはまず書いていない、まさに目から鱗と言えるパールの数々です。

「研修医教育も、患者ケアの延長線上にあると考えよ!」
「不平等に教えよ!これこそが初期研修医教育の要!」
「キャラの問題は、『待つ』ことが大切!わざと見逃す欠点もある!」
「パフォーマンスの悪い研修医を歓迎しよう!」
多様性のあるメンバーは、チーム力をアップさせる。
「定時の帰宅を促し、研修医のプライベートライフを大切にしよう!」
「教育はライブ。インタラクティブ性を追求せよ!」
「知識のなさを責めるなかれ!知識への欲望のなさこそを責めよ!」
「タイムマネジメントの基本は、考えること。」
早く帰れない原因をしっかり分析して、改善策を立ててトライしよう。
「研修施設は、研修医を絶対に守らなければならない!」
「『こっそり』診療方針を変えなくてもいいよう、普段からちゃんと反対意見を言わせよう。」
「朝令暮改を恐れるな!」
患者の状態、判断は変わる。そのとき意見の変更を誠実に伝えることも、教育の一環。

本書は、医師のみならず、看護師、薬剤師、管理栄養士、臨床検査技師など他職種の方々にもぜひ読んでいただきたい好著です。

先に示しましたB君については、「Dr.イワケンの指導の格言」では、特に以下が当てはまると思いました。
「不平等に教えよ!これこそが初期研修医教育の要!」
「キャラの問題は、『待つ』ことが大切!わざと見逃す欠点もある!」
「パフォーマンスの悪い研修医を歓迎しよう!」

 

私自身もそして当院も、まだまだ出来ていないことが多々ありますが、Dr.イワケンの研修医指導から学び、少しずつ改善していきたいと思います。

 


1)岩田健太郎 「Dr.イワケンのねころんで読める研修医指導」2019年 メディカ出版
https://store.medica.co.jp/item/402010480

執筆:岩岡秀明
船橋市立医療センター代謝内科

 

発行:公益財団法人日米医学医療交流財団【2022年1月31日】